痛みの治療を知ろう

第3話 激烈に痛い三叉神経痛

山田さんが帽子を深くかぶり、顔にスカーフを巻いてくるときは、調子の悪いときです。「どうかなー」と手をあてようとすると、イスから落ちそうなほど体を引いてしまいます。「先生やめてよ。風があたるだけで痛いのに、触られたらたまらないわよ!」 「先生、調子悪いわ。おかずがかめないので、お粥を流し込んでいるのよ」歯を磨いたり、顔を洗うこともできないようです。

三叉神経痛は、顔面の片側に発作的に起こる痛みです。一回の発作は5秒から20秒ほど。それ以上に続くことはまれですし、続いたらとても耐えられない痛みです。患者さんはこの痛みを「電気が走るような」、「顔を刺されるような」、「えぐられるような強烈な痛み」だと表現します。発作が始まると手を顔に当て、顔をゆがめてうずくまってしまいます。しかし不思議なことに、寝ている間に発作が起こることはありません。

この神経痛の原因は、はっきりしていませんが、脳から枝分かれして出てくる三叉神経が周囲の血管に触れて、痛みが誘発されるのではと考えられています。ですから、血管と神経が触れないように引き離す手術が、熟達した脳外科医により行われています。しかし、どんなに手術がうまくできても治癒率は60%前後ですので、これだけが原因とは言い切れないようです。

治療は抗てんかん薬から始めますが、薬で痛みが取れない人や副作用に耐えられない人、また手術を受けるには高齢であったり、手術を好まれない人は、神経ブロックが良いでしょう。 三叉神経を遮断(ブロック)することで、刺激が脳に入らなくなり、発作は起きなくなります。ブロック方法にもよりますが通常一度の神経ブロックで効果は一年以上持続します。欠点は神経に直接針を刺すので、その10数秒はかなりの痛みを伴います。また、効果があるほどしびれが残ります。それでも、ほとんどの患者さんは神経ブロックを選びます。それほど三叉神経痛は痛いのです。

平成15年から16年に毎日新聞日曜版に掲載されました「痛みさえなければ」を再編集しています。