痛みの治療を知ろう

第13話 階段が辛い 膝の痛み

「最近、歩き始めに膝がきしむ感じがしたり、椅子から立ち上がる時に痛んだりします。特に階段の下りがつらくなり、階段を降りるのに両足を揃えながら降りています。」

人間は両膝で体重を支えており、階段の上り下りや駆け足では片方の膝に全体重がかかります。そのため、歳をとるに従って膝の痛みを訴える人が増えてきます。特に、65歳を超したあたりから膝の痛みやきしみを訴えるようになり、正座ができなくなります。これが膝の痛みの中で最も多い、変形性膝関節症の症状です。

これは、膝の関節の中にある半月板や軟骨が老化のためにすり減り、弾力を失って関節が次第に変形していく病気です。日本人は膝の内側が狭くなることが多く、そこに強い痛みが出てきます。外見的には、元々のO脚がさらにひどくなっていきます。膝が痛むと生活が制限されて外出も減り、精神的にもよくありません。特にエレベーターのないアパートに住んでいる高齢者にとっては、やっかいな病気となります。その原因には加齢、体重増加、筋力不足が深く関係しています。

治療としては、その原因を取り除けば良いわけですが、年齢はどうしようもありませんので、まず体重をなるべく減らすこと、そして膝の周りの筋力をつけることが重要となります。しかし、運動をすすめても膝が痛いから運動ができない。食事制限といっても、数少ない楽しみだからとなかなか減らしてくれません。食事量を半分にした、3分の2にしたと言われるのに、いっこうに体重が減らないのも謎です。体重を減らすのは難しいのが現実です。

変形性膝関節症の治療として、最も効果的なのが運動療法。膝を守ってくれる太ももの筋肉を鍛えるのです。水泳や水中歩行も良いのですが、方法さえきっちり学べば自宅でもできます。要は、この運動を持続して行えるかどうかです。私のクリニックでは運動療法を学校の勉強にたとえて、クリニックで運動療法をしながらも、自宅で予習・復習のように毎日運動してもらいます。人間誰でも怠けぐせがありますから、監視しないと予習も復習もしなくなります。そこで、連絡帳代わりにカードを渡して、毎日運動をしたかどうかチェックしてから診察に来てもらいます。

毎日の運動をこなしていくと、半年後には見違えるような筋力が付き、痛みもぐっと減ってきます。それでも痛みが強く平地歩行で痛むようであれば、関節内の潤滑作用を持つヒアルロン酸の関節内注射も良い方法です。これらの治療でも痛みが強く生活に支障がある場合は、手術を考慮しなければなりませんが、大切なのは手術前後のリハビリ。これをこなせるかどうかで治療の効果が決まります。そのため、リハビリをしっかりできる気力と体力がある内に手術を行わないと、手術の好機を失います。

平成15年から16年に毎日新聞日曜版に掲載されました「痛みさえなければ」を再編集しています。