痛みの治療を知ろう

第16話 こんな痛みも辛いです

  1. 群発頭痛
  2. 顔がゆがむ(顔面神経麻痺)
  3. 顔面・眼瞼けいれん
  4. 非定型顔面痛
  5. むち打ち症
  6. 反射性交感神経萎縮症
  7. 肋間神経痛
  8. 陰部痛・肛門痛
  9. めまい、耳鳴り、難聴
  10. アレルギー性鼻炎(花粉症)

1. 群発頭痛

ある期間(1〜3か月)に集中して起こる激しい頭痛で、まったく頭痛が起きない非発作期がある。男性に多く20〜90分間持続する。症状は夜半寝入ってから起きることが多く、片側の目の奥の痛みや側頭の激しい痛みを訴える、じっとしていられないほどの痛みで、痛みと同じ側の涙が出る、目が充血する、鼻が詰まる、鼻汁がでるといった自律神経症状を伴います。しかし、発作がない時期はうそのように元気なのが特徴です。 発作時の治療はスマトリプタンの注射と、高濃度の酸素吸入です。症状が激しいので2つの治療を同時に行なっています。

2. 顔がゆがむ(顔面神経麻痺)

ある日、鏡をふと見たら顔がゆがんでいる。左半分に力が入らず、頬はたれ、まぶたが閉じない。うがいをすると、口から水が漏れる。食事も、口の半分がうまく動かずはがゆい。

顔面神経は、脳幹(脳と脊髄の上端をつなぐ部分)から細長い骨のトンネルを通り、顔に出てきて仕事をします。この神経が、脳幹を出るまでに障害を受けたものを中枢性麻痺、脳幹からトンネルにかけて障害を受けたものを末梢性麻痺と呼びます。麻痺の多くは末梢性で、ベル麻痺と呼ばれています。一方、ウイルスによって顔面神経が炎症を起こし、同様の麻痺が生じる場合はハント症候群と呼ばれ、耳の周りの痛みや水疱を伴うことがあります。 麻痺の程度は、発症して2週間頃にはっきりしてきますが、どちらであっても早く星状神経節ブロックによる治療を開始したほうが効果は良好です。

3. 顔面・眼瞼けいれん

治療が必要になるほどの眼瞼けいれんは、まばたきが次第に増加し、明るいところでは異常にまぶしく感じて、まぶたを強く閉じてしまいます。このためけいれんが起きると、視力が正常でも目は見えにくくなり、外を歩きづらくなります。
顔面けいれんは中年の女性に多く発症し、多くの場合、顔面の左右どちらか片方にけいれんを起こします。原因は、顔面神経が周囲の血管から圧迫を受けているためではないかと考えられています。そこで脳神経外科では圧迫している血管を引き離す手術を行います。的確な手術が行われると、長期間にわたって症状が改善します。しかし、手術は難しいため、経験豊かな医師を選ぶ必要があります。
普段は症状が軽いのに人前に出ると症状が強くなるような顔面けいれんや、眼瞼けいれんの人は安定剤の服用で症状を抑えることもできます。

4. 非定型顔面痛

ある日、下あごがいつも痛いという35歳の看護師がやって来ました。数年前から下あごに痛みを感じ、虫歯の治療しても痛みがなくならないので、無理矢理、歯を抜いてもらったそうです。それでも痛みが消えず、次々に抜いて、とうとう下あごの片側半分の歯がなくなっていました。そこで初めて、歯を抜いても痛みが取れないことに気づき、その後は私の治療を受け入れてくれました。 顔面や口の中にある神経は、非常にデリケートでかつ爆発的反応をします。そのため神経に何らかの障害が生じると顔面やあごに難治性の痛みが生じることがあります。このような場合治療は痛い神経を切ったり抜いたりするのではなく、時間をかけて説明・説得する治療法が功を奏します。

5. むち打ち症

ペインクリニックに来られるむち打ち症の患者さんは、事故後、整形外科での治療を続けても症状の改善がない、難治性の痛みや不定愁訴を抱えています。むち打ち症は、大切な首が衝撃を受けて頸椎に無理な力がかかったため、捻挫を起こしたり頸椎間にある頸椎椎間板が飛び出して神経を圧迫したり、また頸髄の微少な血流障害や交感神経の過緊張によって複雑な症状が出ると推測されています。
治療は、首や肩や背部の痛みには局所に注射するトリガーポイントブロック、頸椎の痛みには頸の関節を治療する頸椎関節ブロック、不定愁訴には交感神経を緩める星状神経節ブロックと安定剤や軽度の抗うつ薬を処方します。 これらの治療はなるべく早く始めたほうが効果的ですが、治療は繰り返しとなり、症状の軽快までには時間がかかります。

6. 反射性交感神経萎縮症

喘息で入院した高校生が、点滴の針を右腕に刺された時にいつもとは違う痛みが走り、その後も針が入っている所が痛むので訴えたが、点滴の入りは良いので針は刺し替えられなかった。次第に腕が腫れてきて腕全体が痛むようになり、手に何かが触れるだけで飛び上がるようになってしまいました。

私の外来に来られた時は、手を触ることもできず、手のひらが汗で湿っぽくなっていました。これが反射性交感神経萎縮症です。神経がちょっと傷ついたり刺激を受けただけなのに過敏となり、強い痛みになります。痛い手や足は使えないので、痛みの周辺は次第にやせ衰えて萎縮していきます。交感神経の異常反応を伴うことが多いのですが、それとは無関係に痛みだけの場合もあります。似たような病気にカウザルギーがありますが、この場合は傷ついた神経がはっきりしています。
ただ言えるのは、その部位に合わせた選択的な神経ブロックや、交感神経ブロックをできるだけ早く始めることが治療として大切です。現在、この複雑な症状は反射性交感神経萎縮症やカウザルギーのみでは正確に表現できないため、CRPStype1、CRPStype2という呼び方に変わっています。

7. 肋間神経痛

急に胸や脇腹、背中が痛くなる。呼吸も注意しないと激痛が胸や背に走る。このような症状を経験したことはありませんか。肋間神経痛は、肋骨の骨折やひび、背骨の変形や圧迫骨折、ガンの影響などにより、肋間神経が骨や筋肉にはさまれたり、炎症を起こすことが原因です。時には、肋骨にちょっと無理な力がかかった後に起きることもあります。また、帯状疱疹が紛れていることもあります。

肋間神経ブロックは、技術的に難しいことではありませんが、肺に針を刺さないように細心の注意が必要ですから、経験ある医師による治療を受けることをおすすめします。

8. 陰部痛・肛門痛

人間の陰部や肛門は、とてもデリケートで敏感な所です。それだけに、ちょっとしたきっかけで痛みが生じることがあります。例えば、「座ると肛門が痛いので立って食事をしている」「仕事をしていても陰部の痛みが気になって集中できない」「横になっても肛門がうずいて寝られない」などです。

原因は、大腸癌や痔の手術で肛門の周囲をいじられた。前立腺の治療で陰部に内視鏡を入れられてから痛み出した。また、陰部をよく見ると帯状疱疹がある場合もあります。さらに、夫との関係が悪くなって痛み出した人や、旅先での異性交渉がきっかけで後に痛みが陰部に出てきた人もいます。しかし、これといった原因が見つからないことも多いです。

こうした症状の場合はまず、性器や肛門の専門科で悪性の病気などがないか確認してください。その上で、ペインクリニックでは肛門や陰部に分布する神経の根本に局所麻酔薬を注入し、一時的に痛みを取り去る仙骨硬膜外ブロックを行います。私が診る患者さんは、ブロックで一時的にでも痛みが軽減できる症状の人です。 このような方は神経ブロックを繰り返しながら精神的な治療や投薬を続けて痛みを軽減していきます。

9. めまい、耳鳴り、難聴

めまい、耳鳴り、難聴といった症状が、急に起きることがあります。原因は突発性難聴、メニエール病、中耳炎、聴神経腫瘍など耳鼻科の病気が主です。めまいだけだと良性発作性頭位性めまい、脳梗塞や小脳付近の腫瘍などが考えられます。これらの症状が出たら、まずは耳鼻科や神経内科、脳神経外科を受診してください。

それでも問題ないと言われた場合や、突発性難聴、メニエール病と診断された場合は、ペインクリニックを受診してください。そこで星状神経節ブロック治療を受けると、これらの症状が軽減するケースも多くみられます。星状神経節ブロックを行うと、頭部の血液循環が良くなり、内耳や脳幹部の循環障害、むくみが改善されます。また、交感神経の緊張を緩和させるので、ストレスの影響を軽くすることでさらに治療の役に立ちます。

10. アレルギー性鼻炎(花粉症)

毎年秋から冬にかけて、痛みがないのにペインクリニックに来院される人が増えてきます。アレルギー性鼻炎や花粉症に悩んだ経験のある人で、特に花粉症のシーズン前には星状神経節ブロック治療を希望して来院されます。

他の病気のために星状神経節ブロックを受けた患者さんが、花粉症が出なくなったり軽くなったということはよく聞きます。耳鼻科や内科での通常の治療で症状が良くならない人や、薬や手術を好まないという人は、星状神経節ブロックを受けてみると良いでしょう。治療は10回程度を目安に行いますが、反応の良い人は4〜5回で症状が軽快します。花粉症の場合は、シーズンの1〜2か月前からこの治療を行っておくと、症状を起こさずに過ごせるようです。 しかしこの治療は健康保険の適応になっていないので治療は1回3,000〜4,000円の自費がかかります。

平成15年から16年に毎日新聞日曜版に掲載されました「痛みさえなければ」を再編集しています。