保険診療と費用

経緯:神奈川県の社会保険行政とペインクリニック この10年

神奈川県では社会保険行政によるペインクリニック(痛みの治療)が十分に認められておりません。患者さんに必要な十分な治療のうち、社会保険で認められない部分については、当院が負担をして治療を行っています。

かつて私が、東京のNTT関東病院ペインクリニック科で治療を行なっていた平成8年からの5年半、保険審査で治療費が認められないようなことはありませんでした。しかし、平成13年に横浜で「横浜痛みのクリニック」を開業した年、審査で認められず当院が負担した治療費は400万円に上りました。どう して同じ治療が東京では認められ神奈川では認められないのか。誠に残念でたまりませんでした。 400万円という額は開院1年余の当院にとっては大きな額でしたが、いかなる申し立てに対しても「他の科と同じように治療するのが望ましい」といわ れ、「神経ブロックなどは痛いのであまりやらないで欲しい」と迫られることすらありました。結局、保険診療費は一円たりとも当院へは戻ってきませんでした。

当時(平成19年以前)、神奈川県の社会保険審査委員にはペインクリニックの専門医は一人もいませんでした。ペインクリニックの専門家ではない保険 審査委員たちが、自ら行なわない難しいブロック治療について、その有効性・必要性といった意義を理解せず、保険に適用外とするケースが非常に多かったのです。

そればかりか、費用がかさむ、より難しいブロック治療などは、審査で全て簡単な「注射」に書き換えられていました。たとえば8,000円の腰部硬膜外ブ ロック治療であっても、全て500円の注射として扱われてしまうという具合です。私たちペインクリニック科の治療は整体やマッサージの治療費より格段に低く見られていたのです。

当院のブロック治療はブロックの施行技術だけでなく、治療前の診断説明、治療後の看護師の観察、ベッドでの休息…それら全てを費用に含んでいます。患者の みなさまならご存じのように、他院の何倍も時間をかけて説明を行ない、治療をしています。それらが全て500円均一になってしまう神奈川県社会保険の制度 のもとでは、いつの日か、当院も「500円均一クリニック」にならざるをえないでしょう。

現在はペインクリニック専門の医師が審査に参加しており、理不尽な査定は以前より減っています。状況は少しずつ改善されていますが、まだまだ多くの治療制限があり、当院が理想とする医療の実践とのギャップは、今もって当院の負担によりギリギリのところに成り立っています。すべての治療が「500円の注射」として低く見切られる様なことは減ってきている一方、皆無となったわけではないのです。

このようなことは関東圏では神奈川だけの特殊な状況です。もし同じ治療を東京や千葉、埼玉で行なえば患者さんの治療の多くは社会保険でできるのです。しかし残念ながら、神奈川では全国均一の平等な治療が社会保険ではできない状況です。

現在でも、当院は保険審査委員と話し合いに努めていますが、今後も神奈川のペインクリニック専門医の中から審査委員を選んでもらうように運動して行かなければならないと思います。 ところで、もし神奈川県の社会保険が今のまま改善されなければどうなるのでしょうか。 必要な治療を必要な回数だけ十分に行う為の費用を、当院が負担し続けることには限界があります。 よって。

  1. 社会保険で認められない部分は患者の皆様の自費にさせて頂く。
  2. 同一日の複数の治療はお断りする。
  3. 社会保険の認める範囲のみで治療する。
  4. 患者の皆様が、ご自身でペインクリニック治療の必要性を社会保険基金へ申し立てていただき、審査委員会から治療継続の許可をもらっていただく。

...といった方法にしてゆかざるを得なくなります。

このようなやり方で治療を続けることは私としては誠に心苦しいものがあります。今後も横浜の地で良質な痛みの治療を続けていくためには皆様にも保健診療の現状についてのご理解と改善へのご協力をいただかねばなりません。

「近年改善された点」

  1. 高齢者(75歳以上)の患者さんへのブロック治療は認められない事が多かったが、高齢化に伴い年齢で治療制限をする審査はなくなっています。
  2. 神奈川県の保険審査委員(ペインクリニックの専門家ではない)が行なわない難しいブロック治療は認められないケースが多くみられましたが、最近は認められる場合が増えてきています。
  3. 難易度が高く高額なブロック治療が安価な注射治療として扱われるケースが減っています。

平成23年2月22日追記
緩和会 横浜クリニック
院長 立山俊朗